横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)51号 判決 1999年4月26日
神奈川県鎌倉市雪ノ下一―五―三五
原告
寺田昌弘
右同所
原告
梁田アツ子
右両名訴訟代理人弁護士
金子喜久男
同
内藤貴昭
東京都文京区千駄木三―一〇―二五
原告
寺田政義
神奈川県鎌倉市小町二丁目二〇番二〇号
原告
池谷セツ子
右両名訴訟代理人弁護士
藤沢抱一
同
細谷裕美
右両名補佐人
長谷川博
神奈川県鎌倉市佐助一丁目九番三〇号
被告
鎌倉税務署長 塚川昭三
右指定代理人
加藤裕
同
木上律子
同
菅野勝雄
同
宇山聡
同
佐藤周明
同
倭文宣人
主文
一 本件訴えのうち、主文第二項の請求に係る訴えを除くその余の訴えをいずれも却下する。
二 平成四年九月九日死亡の寺田源次郎に係る相続税に関する原告らの平成六年三月八日付け更正の請求について被告が平成六年七月一九日付けでした更正をすべき理由がない旨の各通知処分の取消請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告昌弘
平成四年九月九日死亡の寺田源次郎(以下「源次郎」という。)に係る原告昌弘の相続税について被告がした次の処分を取り消す。
1 平成五年一二月二七日付けでした更正処分(以下「原告昌弘に対する本件更正」のようにいう。)のうち課税価格四億一五七一万〇九八三円納付すべき税額一億七〇八七万八二〇〇円を超える部分
2 1と同日付けでされた過少申告加算税賦課決定(以下「原告昌弘に対する本件加算税賦課決定」のようにいう。)及び重加算税賦課決定(以下「本件重加決定」という。)
3 平成六年一二月一三日付けでした異議決定処分(以下「原告昌弘に対する本件異議決定」のようにいう。)のうち課税価格四億一五七一万〇九八三円納付すべき税額一億七〇八七万八二〇〇円を超える部分
4 原告昌弘の平成六年三月八日付け更正の請求(以下「原告昌弘の本件更正の請求」のようにいう。)について平成六年七月一九日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知(以下「原告昌弘に対する本件通知処分」のようにいう。)
二 原告アツ子
源次郎の死亡に係る原告アツ子の相続税について被告がした次の処分を取り消す。
1 平成五年一二月二七日付けでした原告アツ子に対する本件更正のうち課税価格一億五〇六四万〇二三〇円納付すべき税額五八九二万三五〇〇円を超える部分
2 1と同日付けでした原告アツ子に対する本件加算税賦課決定
3 平成六年一二月一三日付けでした原告アツ子に対する本件異議決定のうち課税価格一億五〇六四万〇二三〇円納付すべき税額五八九二万三五〇〇円を超える部分
4 原告アツ子の平成六年三月八日付け更正の請求について平成六年七月一九日付けでした原告アツ子に対する本件通知処分
三 原告政義
源次郎の死亡に係る原告政義の相続税について被告がした次の処分を取り消す。
1 平成五年一二月二七日付けでした原告政義に対する本件更正
2 平成六年七月一九日付けでした原告政義に対する本件通知処分
四 原告セツ子
源次郎の死亡に係る原告セツ子の相続税について被告がした次の処分を取り消す。
1 平成五年一二月二七日付けでした原告セツ子に対する本件更正
2 平成六年七月一九日付けでした原告セツ子に対する本件通知処分
第二事案の内容
一 事案の概要
1 原告らは、平成四年九月九日に死亡した源次郎の相続人であるが、源次郎の相続財産(以下「本件相続財産」という。)に係る相続税について、本件相続財産中の有限会社東政(以下「東政」という。)の出資口数を過少に申告しているとして、被告から、本件更正及び本件加算税賦課決定を受け、原告昌弘は右各処分のほか本件重加決定を受けた。
2 他方で、原告らは、本件相続財産中の東政の一口当たりの出資の価額が零円と評価されるべきであるとして、被告に対し更正の請求をした。これに対し、被告は、理由がない旨の本件通知処分をした。
3 原告らは、1の本件更正、本件加算税賦課決定及び本件重加決定並びに2の本件通知処分に対し、異議申立てをした。
被告は、右の異議申立てを併合審理し、いずれも棄却する旨の本件異議決定をした。
4 そして、原告らは、第一のとおりの取消しを求めている。
これが本件事案の概要である。
二 前提となる事実(末尾に証拠の記載のないものは当事者間に争いがない。証拠の記載のあるものは主にその証拠により認定した事実である。)
1 当事者
源次郎は、平成四年九月九日に死亡した(以下、右死亡時を「本件相続開始時」ということがある。)。
源次郎の相続人は、原告昌弘、同アツ子、同政義、同セツ子のほか寺田彩乃、寺田啓吾、寺田悟大、池谷昌大及び池谷有喜子の計九名である。
2 課税処分の経緯
(一) 確定申告
原告らは、本件相続税について、平成五年三月八日、別表一ないし四「本件課税処分等の経緯」の各順号1「期限内申告」欄記載のとおり確定申告をした。
なお、本件では、後記のとおり本件相続財産中の東政の出資の評価額が争点の一つとなるところ、右申告に際し原告らが提出した「相続税がかかる財産の明細書」には、東政の出資につき、三四〇〇口、単価七万三二七四円、価額二億四九一三万一六〇〇円との記載が二段になされ、右金額の倍の出資がこの関係の相続財産であると記載されていた。(乙A三・四及び甲B七の各八丁)
(二) 修正申告
原告らは、平成五年一二月一三日、別表一ないし四の各順号2のとおり修正申告をした。
なお、右修正申告において本件相続財産中の東政の出資の価額は、確定申告分の他に一七六万一二〇〇円分あると増額修正され、右出資一口当たりの価額は七万三五三三円とされた。すなわち、(一)の確定申告における一口の出資との価格差二五九円に六八〇〇口を乗じた金額だけ増額された。(乙A五・六の各五丁、甲B八の五丁)。
(三) 本件更正及び本件加算税賦課決定
被告は、原告昌弘が源次郎の所有に係る東政の出資四六〇〇口につき東政の従業員である根上直子、高野シズ及び池田幾子に贈与(以下「本件贈与」という。)されていたかのように仮装し、課税価格の基礎となる財産を過少に申告していたとして、平成五年一二月二七日付けで同原告に対し別表一の順号4「更正・賦課決定」欄記載のとおりの本件更正並びに本件加算税賦課決定及び本件重加決定をした。
被告は、同日付けでその余の原告らに対しても、別表二ないし四の各順号4の「更正・賦課決定」欄記載のとおりの本件更正及び本件賦課決定をした。
(乙A七・八、乙B二・三)
(四) 本件更正及び本件加算税賦課決定についての異議申立て
原告らは、平成六年二月二五日、本件更正及び本件加算税賦課決定に対し別表一ないし四の各順号
5「異議申立て」欄記載のとおりの異議申立てをした。
右異議申立ての理由は、被告が本件更正に当たり本件贈与の事実が存在しないと認定したことが誤りであるというものであった。
(乙A七・八、乙B二・三)
(五) 本件更正の請求及び本件通知処分
他方で、原告らは、「本件更正に係る東政の出資一口当たりの評価額七万三五三三円は過大であり、それが零円とされるべきである。その理由は、東政がキャラバン及びデーアンドシーのために物上保証をしているところ、主債務者のキャラバン及びデーアンドシー(以下「本件主債務者」ということがある。)が事実上倒産したので、東政は物上保証責任を果たすこととなるが、その求償はできないので、この分を相続税法一四条一項の確実な債務に準じて計算すると、東政の出資は零円と評価されるからである。」として、平成六年三月八日、別表一ないし四の各順号6「更正の請求」のとおり本件更正の請求をした。(甲B一〇の一・二、乙A九・一〇)
被告は、原告らに対し本件通知処分をしたところ、その理由は、「平成四年九月九日の相続開始時点において、キャラバン及びデーアンドシーが破産・和議・会社更正あるいは強制執行等の手続を受け、または本件主債務者に事業閉鎖等の事実も認められないことから、本件更正の請求に係る債務は、相続税法一四条一項に規定する確実な債務とは認められません。」というものであった。(甲B一一、弁論の全趣旨)
(六) 本件通知処分についての異議申立て
(1) 原告昌弘及び原告アツ子
原告昌弘及び原告アツ子は、平成六年九月一九日、本件通知処分について異議申立てをした。
なお、本案前の不服申立前置の論点に関連するが、右原告らの提出に係る異議申立書(乙A一一・一二)の「異議申立てに係る処分」欄にはいずれも「平成六年三月八日に提出した被相続人寺田源次郎の相続税更正請求書の却下処分」と記載され、「異議申立ての趣旨」欄には「相続税の更正請求についての、貴署の申立理由がない旨の通知処分の撤回を求める。」と記載されている。
そして、「異議申立ての理由」である別紙「理由書」においては、「東政が物上保証をしているキャラバン及びデーアンドシーが本件相続開始時において自力では経営継続が困難な状態にあり、東政の物上保証債務が求償不可能であり、東政の出資一口当たりの評価額は零円に減額されるべきである。」旨が記載されている。(乙A一一・一二)
(2) 原告政義及び原告セツ子
原告政義及び原告セツ子は、平成六年九月一四日、本件通知処分について異議申立てをした。
なお、不服申立前置に関連するが、その異議申立書(甲B一二の一・二)の「異議申立てに係る処分」欄には「平成六年三月八日提出の平成四年分の相続税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の処分」と記載され、「異議申立ての趣旨」欄には右記載に係る処分の取消しを求める旨記載されている。
また、「別紙」に記載された「異議申立ての理由」においては、「源次郎は、キャラバン及びデーアンドシーの債務を連帯保証していたが、右両社が債務超過に陥っているため連帯保証人である源次郎のキャラバン及びデーアンドシーに対する求償権の行使は不能の状態にあったから、右連帯保証債務額六六億四七〇〇万円は「確実な債務」として債務控除の対象とされるべきである。」旨が記載されている。(甲B一二の一・二)
(七) 本件異議決定
被告は、平成六年一二月七日付けで原告らに対し前記(四)及び(六)の各異議申立てを併合審理する旨の通知をし、同月一三日付けで次のとおり異議決定をした。
「1 各異議申立てを併合して審理したことに伴い、更正の請求額を超える全部につき審理した結果、別表一三の「相続税額の異議決定額」のとおり原処分の一部を取り消します。
2 重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分に係る異議申立てをいずれも棄却します。」(甲A一、甲B一三)
(八) 審査請求及び裁決
(1) 審査請求
原告らは、右(七)の異議決定を不服として、平成七年一月一三日、国税不服審判所長に対し審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。
不服申立前置に関連するが、原告昌弘及び原告アツ子の審査請求書(乙A一・二)には、「審査請求をしようとする処分(原処分)」欄に「更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分」と記載され、「審査請求の理由」には、東政の保証債務が「確実と認められる債務」であった旨が記載されている。
原告政義及び原告セツ子の審査請求書(甲B一四の一・二)の処分名欄には「更正をすべき理由がない旨の通知処分」と記載され、「審査請求の理由」には、原告昌弘及び原告アツ子の場合とほぼ同様の記載がされていた。
(2) 裁決
国税不服審判所長は、原告昌弘及び原告アツ子の本件審査請求に対し、本件通知処分及び本件更正のうち同原告らに係るものをあわせて審理した上、平成八年六月一二日付けで右審査請求を棄却する裁決(以下「原告昌弘及び原告アツ子に対する本件裁決」のようにいう。)をした(乙A一四)。
また、国税不服審判所長は、同日付けで原告政義及び原告セツ子の本件審査請求に対しても前同様のあわせ審理をした上、ほぼ同様の理由で、これを棄却する裁決をした(甲B六)。
三 主な争点
1 本案前の争点
(一) 本件更正及び本件加算税賦課決定についての審査請求前置の有無
(二) 原告昌弘及び原告アツ子に対する本件通知処分の取消しを求める訴えの出訴期間遵守の有無
(三) 原告昌弘及び原告アツ子に係る異議決定の取消しを求める訴えの出訴期間遵守の有無
2 本案の争点
被告が本件通知処分に当たり東政の物上保証債務及び源次郎の連帯保証債務を相続税法一四条一項の「確実と認められる債務」に該当しないと判断したことの適否
四 争点に関する当事者双方の主張
1 本件更正及び本件加算税賦課決定についての審査請求前置の有無(本案前の争点)
(一) 被告の主張
原告らは、本件更正及び本件加算税賦課決定については、審査請求を経ていないから、その取消しを求める訴えは、不適法である。
(二) 原告昌弘及び原告アツ子の主張
原告昌弘及び原告アツ子は本件通知処分に対する異議申立ては行っていること、原告昌弘及び原告アツ子は本件更正及び本件加算税賦課決定を容認したものではないこと、被告は本件更正及び本件加算税賦課決定と本件通知処分の各異議申立てをあわせ審理していること、通則法九〇条二項、三項の規定があること、以上からすれば、本件更正及び本件加算税賦課決定についても審査請求を経たものと解することが可能である。
(三) 原告政義及び原告セツ子の主張
本件通知処分の取消しが認められた場合、原告政義及び原告セツ子の本件更正の請求の額を超える部分全部について取消しが認められるのであるから、本件更正の請求は本件更正についての審査請求をも当然に包含しているというべきである。
2 原告昌弘及び原告アツ子が本件更正及び本件加算税賦課決定について裁決を経ないことの正当理由の有無(本案前の争点)
(一) 原告昌弘及び原告アツ子の主張
仮に原告昌弘及び原告アツ子が本件更正及び本件加算税賦課決定について審査請求を経ていないとしても、前記事情からすれば、通則法一一五条一項三号の裁決を経ないことにつき「正当の理由」があり、本件訴えのうち本件更正及び本件加算税賦課決定の取消しを求める部分は適法である。
(二) 被告の主張
複数の処分の一つについて審査請求を経ていることをもってその余の処分について審査請求を経ないことにつき正当の理由が認められるには、不服の事由が同一であるか、右各処分の目的、効果、手続が同一であるか等を総合してそれらが肯定されることにより判断される。
ところで、増額更正と更正すべき理由がない旨の通知処分は、その目的、効果、手続及び不服事由が異なるから、標記の点につき「正当の理由」は認められない。
3 原告昌弘及び原告アツ子に対する本件通知処分の取消しを求める訴えの出訴期間の遵守の有無(本案前の争点)
(一) 被告の主張
原告昌弘及び原告アツ子は、平成八年一二月一六日付け「訴え変更の申立書」によって、自己に対する本件通知処分の取消しを求める訴えを提起した。ところで、右原告らは本件通知処分に対する審査請求についての裁決の送達を同年六月一五日に受けている。したがって、右訴えの提起は、処分を知った日から三箇月を経過した後にされたものであり、不適法である。
(二) 原告昌弘及び原告アツ子の主張
本件における事情からして訴えの変更前後の訴えの間には訴訟物の同一性が認められるので、当初の訴状をもってした訴えにより出訴期間を遵守している。
4 原告昌弘及び原告アツ子に対する本件異議決定の取消しを求める訴えの出訴期間の遵守の有無(本案前の争点)
(一) 被告の主張
原告昌弘及び原告アツ子に対する本件異議決定には、それ自体についての不服申立ての手続がないから、直ちにその取消訴訟を提起できる。したがって、右決定の取消訴訟は、右決定のあったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならない。しかるところ、原告昌弘は平成六年一二月二四日に、同梁田アツ子は同月一七日にそれぞれ異議決定書の送達を受けているが、本件訴えは、右各日から三箇月を経過した後の平成八年九月に提起されているから、不適法である。
(二) 原告昌弘及び原告アツ子の主張
標記の点についての被告の主張は争う。
5 本件更正、本件加算税賦課決定及び本件通知処分の適否(本案の争点)
(一) 被告の主張
本件更正、本件加算税賦課決定及び本件通知処分は、別紙「本件更正、本件加算税賦課決定及び本件通知処分の適法性」欄記載の事実に基づくものであり、適法である。
(二) 原告らの主張
標記の点についての被告の主張は争う。
6 相続税法一四条一項の適用の可否(本案の争点)
(一) 原告昌弘及び原告アツ子の主張
東政は、本件相続開始時において、キャラバン及びデーアンドシーのために四〇億円以上の物上保証(以下「本件物上保証」という。)をしていた。ところが、キャラバン及びデーアンドシーの財務状況からすれば、東政が右の主たる債務を代位弁済した場合でも、求償権を行使することは考えられず、右求償権は事実上行使不可能なものとして東政の負担に帰することが予定されていた。右両会社の整理計画においても、右求償権は無価値なものとして扱われている。
したがって、本件物上保証債務は東政の出資一口当たりの純資産額の算定に当たり相続税法一四条一項の「確実な債務」として控除されるべきである。
(二) 原告政義及び原告セツ子の主張
キャラバンが本件相続開始時に債務超過の状態に陥っていたかどうかは、キャラバン一社の経営状態、財務状況のみから判断すべきではなく、子会社五社を含めた連結決算によるべきである。これによると、別表一六「キャラバン親子会社連結の経営及び財務状況の比較表」記載のとおりであり、キャラバンほか子会社五社が本件相続開始時の相当以前から債務超過に陥っていたことは明らかである。
(三) 被告の主張
本件相続開始時においてキャラバン及びデーアンドシーは、左記の事情からうかがえるように、弁済不能の状態にはなかった。
(1) キャラバンは、平成四年当時、その所有に係る土地を売却して主債務の弁済に充てることを計画していた。さらに、キャラバンは、別表九のとおり本件相続開始後に取引銀行から合計一〇億五〇〇〇万円の融資を受けている。また、キャラバンは、同じころ、取引先である三菱銀行、日商岩井との間で事業の再建について合意し、関連会社を統合する等している。
(2) また、デーアンドシーは、取引先の千葉興業銀行から別表一〇のとおり二〇〇〇万円の融資を受けている。
そして、デーアンドシーの本件相続開始時を含む事業年度及びその前事業年度は、新商品の売上が好調であったため、年間売上高が約一三三パーセントの伸びを示す等している。
(3) キャラバン及びデーアンドシーが会社整理手続の申立てをしたのは、本件相続開始の一年二か月後に至ってからであり、また、東政による両者の主債務の代位弁済は、本件相続開始の一年九か月後に至ってからされている。
第三争点に対する判断(証拠により認定した事実は適宜事実の前後に証拠を略記する。争いのない事実及び一度認定した事実はその旨を断らない。)
一 本件更正及び本件加算税賦課決定の取消訴訟と審査請求前置の有無
1 審査請求の欠如
(一) 本件における異議決定と審査請求
本件においては、本件更正及びこれに伴う本件加算税賦課決定と更正の請求が理由がないとする通知処分といういわば二個の系統の原処分があり、そのそれぞれについて異議申立てはされたところ、異議決定は、両方の異議申立てについて併合審理をして、まとめて一個としてされている(第二の二2(七))。
そこで、次に、原告らが本件更正及び本件加算税賦課決定についての異議決定部分に対して審査請求をしているかを検討する。
(二) 審査請求書の請求対象の記載
通則法八七条一項は、審査請求は審査請求に係る処分(一号)、審査請求の趣旨及び理由(三号)を記載した書面を提出してしなければならない旨規定し、同条三項は、審査請求の趣旨は、処分の取消し又は変更を求める範囲を明らかにするように記載するものとし、審査請求の理由においては、処分に係る通知書その他の書面により通知されている処分の理由に対する審査請求人の主張が明らかにされていなければならない旨規定している。明確を期するために様式性を要求したものと解される。
しかるところ、原告らは、いずれも審査請求書の「審査請求をしようとする処分(原処分)」欄に「(更正の請求に対する)更正をすべき理由がない旨の通知処分」とのみ記載している(第二の二2(八))そして、審査請求の趣旨欄には「左記の原処分の全部の取消しを求める。」と記載している。
(乙A一・二、甲B一四の一・二)
(三) 審査請求書の請求理由の記載
原告らは、東政の出資一口当たりの評価額が零であること及び本件物上保証債務が相続税の計算の基礎となる所得から控除されるべき債務に当たることを理由に、更正の請求額まで申告に係る税額の減額を求めたが、本件通知処分は、右請求が理由がないとした処分である(第二の二2(五))。これに対し、本件更正は東政の出資の贈与の事実が存しないことを理由とする増額更正であって、本件加算税賦課決定も本件更正を理由としてされたものである(第二の二2(三))。このようにこれらの処分は、その基礎となる事実関係が異なる。
ところが、審査請求書の別紙「審査請求の理由」において、原告らは、もっぱら更正の請求の理由とした東政の出資評価の点のみを問題とし、本件贈与の有無については何ら言及していない。
(四) まとめ
以上のことからすれば、原告らは、審査請求書の記載どおり本件通知処分についてのみ審査請求をしたものであって、本件更正及び本件加算税賦課決定については審査請求をしていないものと解すべきである。
なお、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定は、申告、修正申告又は更正に係る課税標準等の計算の基礎事実に過少申告、仮装、隠ぺいがあった場合等に一種の行政上の制裁として課されるものであるから、その効力を訴訟で争う場合に右各処分について個別に不服申立前置を要すべきことはもとより当然である。
2 原告らの主張の検討
(一) 審査請求書の解釈の可能性の有無
原告昌弘及び原告アツ子は、本件審査請求書に本件通知処分のみを審査請求の対象とするかのように記載したのは、本件審査請求において東政の出資評価の点のみを争い、東政の出資口数の贈与の事実については争わないことを明確にするためであって、本件更正及び本件加算税賦課決定の効力を認める趣旨ではないと主張する。
しかしながら、審査請求の対象の記載からは本件通知処分のみを審査請求の対象とすることが明確にされており、審査請求の理由においても本件通知処分の適否にかかわる東政の出資評価の点のみを争うというのであるから、原告らが本件更正及び本件加算税賦課決定の効力を審査請求において問題としない趣旨と解する他ない。右原告らの主張は採用することができない。
(二) 本件通知処分に対する審査請求と本件更正に対する審査請求の大小
原告政義及び原告セツ子は、本件通知処分の取消しが認められた場合、申告額を下回る部分についても更正の請求額まで取り消されることになるから、本件通知処分についての審査請求は本件更正の審査請求をも当然に含むものであると主張する。
確かに、課税価格の大きさを原告昌弘を例にして額の少ない順に並べると、更正の請求時(四億一五七一万〇九八三円)、期限内申告時(六億六〇一一万一〇〇〇円)、修正申告時(六億六五七二万三〇〇〇円)、本件更正時(七億五〇二八万六〇〇〇円)となるところ、更正すべき理由がない旨の通知(本件通知処分)は、納税者が、申告に係る課税標準等又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったこと等を理由に申告に係る税額が過大であるとしてした更正の請求に対し、税務署長がその理由がない旨の通知をする処分である(通則法二三条一項)。そして、本件通知処分に対する審査請求が認容されると、更正の請求が認容され、課税価格は申告額より少なくなるので、課税価格がそれより多額の申告及び本件更正の効力が消滅することになる。したがって、右のような場合には本件更正及び本件加算税賦課決定について審査請求をする必要がないということになる。
しかし、更正の請求が理由がないとする本件通知処分に対する審査請求が排斥されるときもあるわけで、その場合において、他に何の不服申立てがないときは、申告における課税価格より多額である本件更正(増額更正)における課税価格が確定することになる。そこで、原告らが、本件通知処分についての審査請求が棄却されたときには、本件更正における課税価格を争い、課税価格がせめて修正申告時における価額とされるべきであるという主張をしたいというのであれば、本件通知処分についての審査請求が棄却される場合に備えて、本件更正及び本件加算税賦課決定についての審査請求もしておかなければならない。したがって、本件のように異議申立てが併合審理されて一個の決定がされたときにも、当初の二系統の原処分の双方に対する審査請求の前置を要求することに不合理はないし、本件通知処分に対する審査請求をもって本件更正及び本件加算税賦課決定についての審査請求に代替させることもできない。
(三) あわせ審理と審査請求経由の有無
(1) 本件審査におけるあわせ審理
本件審査請求の裁決書の「原処分」欄には、「相続税の更正の請求に対する平成六年七月一九日付更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成五年一二月二七日付でされた更正処分をあわせ審理)」との記載がされているところ、原告らは、右のあわせ審理がされていることを理由に本件更正についても審査請求を経ている旨主張する。
(2) あわせ審理の制度
通則法一〇四条二項は、「更正決定等について不服申立てがされている場合において、当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等があるときは、国税不服審判所長等は、前項の規定によるもののほか、当該他の更正決定等についてあわせて審理することができる。ただし、当該他の更正決定等について不服申立ての決定又は裁決がされているときは、この限りでない。」と規定し、また、同条四項は、「前二項の規定は、更正の請求に対する処分について不服申立てがされている場合において、当該更正の請求に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正又は決定があるときについて準用する。」と規定する。
しかし、右各規定は、あわせ審理をしなければならないと規定するのではなく、あわせ審理をすることができると定めているのであり、このことからも判明するように、更正の請求に対する処分とこれと課税標準等を共通にするその他の更正等があるときに、それぞれの処分の適否についての審査庁の判断の統一性を図り、また手続の重複を避け、納税者の権利救済を図ることを目的として、必要な範囲であわせ審理をすることができるとしたものと解される。そして、同条三項が「当該不服申立てについての決定又は裁決において当該他の更正決定等の全部又は一部を取り消すことができる。」と規定しているのは、更正の請求を理由がないとする通知処分の取消しをする場合には、その判断と整合性を保つ限度で他の処分の取消しをすることもできることとしたものと解される。
(3) 本件におけるあわせ審理の状況と審査請求前置の有無
これを本件について見ると、本件更正及び本件加算税賦課決定に対する異議申立てと本件通知処分に対する異議申立てとが別にされていたところ、本件異議決定は両異議申立てについてまとめて一個の異議決定をした。これに対する本件審査請求は本件通知処分に対するものだけがされ、本件更正及び本件加算税賦課決定についての審査請求はされなかった(第二の二2(四)(六)(七)(八))。
ところが、裁決書の原処分の表示欄に「本件通知処分」に付加してカッコ書で「本件更正をあわせ審理」と記載されているから、本件審査請求に対する審理において、本件更正についてあわせ審理がされたというわけである(前記(1))が、審査裁決の主文においては、「審査請求を棄却する」とされているにとどまる(乙A一四、甲B六)。前記のようにあわせ審理をすることについては、カッコ書でその旨を記載する程であることとの対比からすると、右のとおり主文にはあわせ審理のことについて注意的な形でも全く記載していないということは、裁決主文では、基本となる本件通知処分に係る審査請求についてだけ理由がないと記載され、あわせ審理された本件更正あるいは本件加算税賦課決定については触れられていないと解するのが相当である。
さらに、審査裁決の理由中においては、東政の出資の評価について判断がされ、本件贈与の有無については具体的な判断は全くされていない(乙A一四、甲B六)。
しかも、本件審査請求の本来の対象である本件通知処分について審査請求が理由なくこれを棄却する場合には、あわせ審理された本件更正について統一的判断をする必要が通常生じないために、本件更正について判断を示す必要に迫られないという事情があった。
以上のように、本件更正については、裁決書主文において記載されていないこと、本件贈与の有無についてはなんら裁決の理由に取り上げられていないこと、しかも本件更正について裁決で判断する必要性が乏しい状況にあること、本件更正についてはもともと原告らが審査請求の対象としていなかったこと、以上の諸点を考慮すると、本件更正及び本件加算税賦課決定については、本件裁決において審理判断されていないと解するのが相当である。裁決書に「あわせ審理」と記載されたのは、本件更正を本件審査請求の場において判断しようと思えば判断できるようにしたという意味にとどまり、実際にはそのような判断をする必要がなかったため、本件更正については判断されなかったというべきである。したがって、原告らは、本件更正及び本件加算税賦課決定については審査請求をしていないだけにとどまらず、審査及び判断を受けてもいないという他なく、結局本件更正については不服申立前置の要請を満たしてはいないと解するのが相当である。
(四) 通則法九〇条三項を理由とするみなし審査請求の有無
原告昌弘及び原告アツ子は、通則法九〇条三項を根拠に本件更正及び本件加算税賦課決定についても審査請求がされたものとみなされるかのように主張する。
ところで、通則法九〇条二項及び三項は、更正決定等について異議申立てがされている場合に、当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等について審査請求がされたときは、当該異議申立てに係る処分についての審査請求がされたものとみなす旨規定している。これは、同一の課税標準等又は税額等についての複数の更正決定等が同時に原処分庁の異議審査と国税不服審判所長の審査に分かれて審査の対象とされた場合においては、争訟経済、審査庁相互の判断の矛盾抵触を避ける見地から異議申立事件を審査請求事件に併合して審理することができるとしたものと解される。
しかし、本件においては、異議申立ての段階で本件通知処分並びに本件更正及び本件加算税賦課決定が併合審理され、いずれについても異議決定がされたのであり、審査請求の段階で右各処分が同時に異なる審査庁の審査の対象とされたものではなかった。したがって、本件は通則法九〇条二項、三項の想定する場面とは明らかに異なるので、右規定を根拠に本件更正及び本件加算税賦課決定について審査請求を経たものと解することはできない。
(五) 不服申立てを経ない「正当な理由」の有無
原告昌弘及び原告アツ子は、本件更正及び本件加算税賦課決定について不服申立てを経ていないとしても、これにつき「正当な理由」(通則法一一五条一項三号)があると主張する。
しかしながら、二つの処分が前後してされた場合に、一方の処分について不服申立てがされたことをもって他方の処分について不服申立てを経ないことについて正当の理由が認められるには、二つの処分の基礎とされた事実関係が共通であるとか、当該納税者の不服事由が同一であるといったように、両処分の目的、効果、手続等が同一であって、当該他方の処分について不服申立てを要求すべき実質的な理由がないといえる場合でなければならない。
しかるところ、本件通知処分と本件更正及び本件加算税賦課決定とはその基礎となる事実関係を異にし、原告らの不服事由も異なるものであること、両処分の性質、手続等が異なること及び原告らも異議決定まではそれを前提とした対応をしていたことは前記のとおりである。したがって、本件通知について審査請求を経たことをもって、本件更正及び本件加算税賦課決定について審査請求を経ないことに「正当な理由」があるということはできず、原告らの主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のことからすれば、原告らが本件更正及び本件加算税賦課決定について審査請求を経たものとは認められず、本件訴えのうち本件更正及び本件加算税賦課決定の取消しを求める部分は、不服申立前置を欠くものとして不適法といわざるを得ない。
なお、原告昌弘及び原告アツ子は、申告額より課税価格が低額となる範囲まで本件更正の取消を求めているが、増額更正は申告額に加算する処分であって、申告額を低額方向に変更することができないから、更正処分について申告額より低額までの範囲の取消訴訟を提起することは、本来無意味であり、その意味からも不適法である。
二 原告昌弘及び原告アツ子に対する本件異議決定の取消しを求める訴えと出訴期間の遵守の有無
原告昌弘及び原告アツ子は、本件異議決定の取消しをも求めている。このような異議決定取消訴訟は、原処分と別に訴えを提起する以上、異議決定固有の違法を問題とするものと考えられることから、異議決定それ自体についての不服申立ての手続は設けられておらず、直ちに取消訴訟を提起することができるとされている。そして、異議決定取消訴訟の出訴期間は、原処分について審査裁決がされた場合であっても、そのこととは無関係に異議決定があったことを知った日から起算される。
ところで、原告昌弘は平成六年一二月二四日に、同アツ子は同月一七日にそれぞれ異議決定書謄本の送達を受けており(乙A一・二)、このときに、本件異議決定を知ったものと認められる。ところが、その取消しを求める本訴は、右起算日から三箇月(行政事件訴訟法一四条一項)を経過した後に提起されたことが記録上明らかである。
よって、本件訴えのうち本件異議決定の取消しを求める部分は、出訴期間経過後のものとして不適法といわざるを得ない。
三 原告昌弘及び原告アツ子に対する本件通知処分の取消しを求める訴えと出訴期間遵守の有無
1 追加変更の訴えの提起
原告昌弘及び原告アツ子は、同人に対する本件通知処分の取消しを求める訴えを平成八年一二月一六日付けの訴えの変更申立書において提起しているところ、右の本件通知処分についての審査請求の裁決は同年六月一二日付けでされ、右裁決書の謄本はそのころ右原告らに送達されている(弁論の全趣旨)。したがって、右訴えの追加的変更は、右原告らが裁決を知ったときから三箇月を経過した後にされたものであることが明らかである。
2 当初の訴えの実質的な内容
ところで、原告昌弘及び原告アツ子は、当初の訴えの請求の趣旨において、本件更正、本件加算税賦課決定及び本件異議決定の取消しを求めているが、取消しを求める課税価格、税額については、原告昌弘は課税価格四億一五七一万〇九八三円納付すべき税額一億七〇八七万八二〇〇円を超える部分とし、同梁田アツ子は課税価格一億五〇六四万〇二三〇円納付すべき税額五八九二万三五〇〇円を超える部分としており、これらは、右原告らの更正の請求に係る課税価格及び納付すべき税額と同一である。
また、同原告らは、当初の訴えの請求の趣旨においては、本件更正、本件加算税賦課決定及び本件異議決定の取消しを求めるとしながらも、その請求の原因においては、もっぱら東政の物上保証債務の求償可能性を問題とし、その一口当たりの出資の評価額は相続税法一四条一項の「確実な債務」に準じて零と評価されるべきである旨主張しており、これは、同原告らが更正の請求の理由とするところと同じである。
そうすると、同原告らは、当初の訴え提起のときから、実質的には、本件通知処分の基礎事実である東政の出資評価の点を争い、右出資の価額が零と判断されるべきであるとの主張を前提に、本件相続税の課税価格、納付すべき税額のうち申告額を下回る部分についても更正の請求額まで取消しを求めていたものと解するのが相当である。
したがって、実質的には、当初の訴え提起時から本件通知処分の取消しを求める部分についても訴えが提起されていたものと同視しうる特段の事情が認められる。
3 まとめ
以上によれば、原告昌弘及び原告アツ子の本件通知の取消しを求める訴えは、出訴期間の遵守において欠けるところがないというべきである。
四 東政の物上保証の履行と求償不能の各見込の有無
1 争点
源次郎は東政の出資を有していたところ、東政は次のとおりキャラバン及びデーアンドシーの債務を物上保証していた。すなわち、本件相続開始時である平成四年九月九日現在のキャラバンのその取引銀行六社及び取引商社に対する借入金の合計額は別表一四記載のとおり五五億〇九七六万七六二〇円で、東政は右債務のうち四〇億四二八三万〇七八八円を物上保証していた。次に、デーアンドシーの本件相続開始時における取引銀行四社に対する借入金の合計額は別表一五記載のとおり六億八五九九万円であり、東政はこのうち六億八四八〇万円を物上保証していた。(甲A一二)
また、源次郎は、取引銀行との包括保証契約または個別の保証契約(甲B一の一ないし一一)に基づき本件相続開始時においてキャラバンの右借入金債務の全額及びデーアンドシーの右借入金債務の大部分について連帯保証(以下、右連帯保証債務を「本件連帯保証債務」という。)をしていた(第九回口頭弁論調書と一体となる原告寺田昌弘本人調書―以下「原告昌弘調書<1>」のようにいう。―三八頁)。
この点に関し、原告らは、本件相続開始時のキャラバン及びデーアンドシーの財産状況からすれば、右各会社を主債務者とする東政の物上保証債務及び源次郎の連帯保証債務はいずれも求償可能性がなく、相続税法一四条一項により相続財産から控除されるべき「確実な債務」に当たるから、同条の適用がないことを前提とする本件通知処分は違法である旨主張する。
そこで、キャラバン及びデーアンドシーに対する求償可能性等と相続財産の評価について検討する。
2 相続財産中の保証債務の扱い
(一) 相続税法一三条一項は、相続により取得した財産について、課税価格に参入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際限に存するもの等の金額のうち当該相続人の負担に帰する部分の金額を控除した金額による旨規定している。そして、同法一四条一項は、前条の規定によりその金額を控除すべき債務は「確実と認められるもの」に限る旨規定している。
(二) そこで、まず、源次郎の負っていた連帯保証債務の扱いを検討する。保証債務は、主債務者が主たる債務を履行した場合には、保証人がその責任を免れる性質のものであるから、将来、保証人がその債務を履行することになるかどうかは確実ではなく、仮にこれを履行しても、その履行による損失は、主債務者に対する求償権の行使により補填されるはずのものである。したがって、保証債務は、原則として、「確実と認められるもの」には該当しないものというべきである。もっとも、相続開始時において、主債務者が弁済不能の状態にある場合には、保証人において保証債務の履行をしなければならないことが確実であるといえ、かつ、履行後、主債務者に対し求償権を行使しても、返還を受ける見込みはなく、右履行による損失は補填されないことになる。したがって、このような場合には、例外的に、保証債務も確実な債務と認められるものに当たると解すべきである。この点は、相続税基本通達(乙A一五)の14―5(1)において、「保証債務については、控除しないこと。ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除すること。」と定められているところと同趣旨である。
そして、主債務者が弁済不能の状態にあるかどうかは、当該債務者について破産、和議、会社更生又は強制執行等の手続が開始し、あるいは事業閉鎖等により債務超過の状態が相当期間継続して他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないなど、主債務者に対し求償権を行使しても、事実上回収が不可能な状況にあることが客観的に認められるかどうかにより決せられるべきである。
3 相続財産中の出資の評価
相続税の課税価格の計算において有限会社の出資の価額は、取り引き相場のない株式の価額に準じて評価するのが相当であり、東政については純資産価額方式により評価するのが適当である。そうすると、右出資の価額は、本件相続開始時の東政の資産から負債を控除した純資産額を発行済み出資口数で除して算出することとなる。これは、財産評価基本通達一八五の考え方によるものである。そして、この場合の負債の算出に際し、東政の負担している物上保証債務については、2と同様に履行とその求償可能性の有無により確実な債務に当たる場合には控除して、計算することとなる。
以下、右解釈を前提に本件主債務者であるキャラバン及びデーアンドシーが本件相続開始時において弁済不能の状態にあったか否かについて検討する。
4 キャラバン及びデーアンドシーの状況
(一) キャラバン
(1) 資産状況
キャラバンは、源次郎が昭和二一年に設立した婦人服の製造・販売等を業とする株式会社であり、原告昌弘は昭和六二年一二月にその代表取締役に就任し、現在までその地位にある。キャラバンの昭和六二年二月一日から平成五年一二月三一日までの各事業年度の財務状況は帳簿上別表一一のとおりであり、キャラバンは、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に至って初めて一億四九六〇万五〇〇〇円の債務超過を生じ、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度においては二七億〇一六九万円の債務超過を生じた。すなわち、キャラバンは、本件相続開始時において、初めて債務超過が出始めたものである。(原告昌弘調書<1>一・二頁)
(2) 事業状況
キャラバンは、平成三年九月二四日、債務返済のために自社所有の兵庫県神戸市中央区港島中町六―五―二所在の土地建物(以下「ポートアイランド物件」という。)及び同市中央区山本通一―七―三所在の土地建物(以下右土地建物を併せて「山本通物件」という。)を売却することにつき主な取引銀行である三菱銀行(現在の東京三菱銀行)と協議を開始し、平成四年に入ってからも右各土地の売却条件等について同銀行と協議を続け(甲B四の一・二丁)、平成四年四月、ポートアイランド物件について予定価格四三億七〇〇万円で国土利用計画法の売却許可を受け、不動産仲介業者を介して第三者シャルレとの間で売却の交渉を行い、平成五年三月二五日に至りこれを一九億九七〇〇万円で売却した。(乙A一八の一丁、原告昌弘調書<2>八ないし一〇頁)
また、キャラバンは、山本通物件についても賃借人である阿含宗に売却しようとする等に努め、平成四年九月には、原告昌弘が阿含宗本部に赴くなどしたが、契約成立には至らなかった(甲B四の二丁、乙A一八の一丁、乙A一九の一、原告昌弘調書<2>二ないし七頁)。
キャラバンは、本件相続開始後の時期に、取引銀行から別表九のとおり賞与資金、運転資金等の使途で一六回にわたり合計一〇億五〇〇〇万円の融資を受けていたし、平成五年三月には、小売店に対する商品の卸販売の展示会が開催され、契約実績はほぼ前年並みであった。(原告昌弘調書<2>一四・一五頁)
(二) デーアンドシー
(1) 資産状況
デーアンドシーは、源次郎が昭和六二年一二月にキャラバンの製造部門を独立させて設立した婦人・子供服の製造等を業とする会社で、原告昌弘が設立当初から現在までその代表取締役の地位にある。デーアンドシーの財務状況は、帳簿上別表一二のとおりであり、デーアンドシーは、平成二年八月一日から同年一二月三一日までの事業年度において二五七万八〇〇〇円の、平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において六二八一万八〇〇〇円の、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において一億三五八〇万八〇〇〇円の、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において四億六三七五万一〇〇〇円の債務超過を生じている。(原告昌弘調書<1>一二頁)
(2) 事業状況
デーアンドシーは、平成三年ころ、キャラバンから服飾ブランドである「ヴィム」に関する企画・販売等の権利を取得した。右ブランドの売上は国外製造による経費節減、バブル経済期における高級品指向と相俟って当初から好調であった。その影響で、デーアンドシーの売上高は、別表一二のとおり平成三年一月一日から同年一二月の事業年度及び平成四年一月一日から同年一二月三一日の各事業年度において、それまでの二七億円前後から三六億円台に伸びた。
平成五年一月一日から同年一二月三一日の事業年度は、商品の人気が低下し、売上高は二八億円台となった。また、子会社の経営不振による影響、人件費の増大による負担もあって、右事業年度以降、債務超過の増大を来した。(乙A二〇の一・二丁)
デーアンドシーは、取引先の千葉興業銀行から別表一〇のとおり平成五年一月二六日に運転資金として二〇〇〇万円の融資を受けた。
5 会社整理手続
(一) 会社整理の申立て及び決定
原告昌弘は、本件相続開始から一年二か月後の平成五年一一月一九日、東京地方裁判所に対しキャラバン及びデーアンドシーに係る商法上の会社整理手続の申立て及び会社財産の保全の申立てをした(同裁判所平成五年(ヒ)第一〇〇一号・一〇〇二号会社整理事件)。同裁判所は、同年一一月二二日、右各債務者の業務及び財産の検査並びにこれを行う検査役の選任の決定及び会社財産の保全処分の決定をした。そして、平成六年六月二七日、右各債務者及びその監督者から提出された整理計画案に基づく整理の実行を命じる決定をした。(甲B一五・一六)
(二) 整理計画案における求償債権の扱い
キャラバンの整理計画案(甲B一五)及びデーアンドシーの整理計画案(甲B一六)において、東政が代位弁済により右各会社に対し取得する求償権については以下の処理をすることとされた。
(1) キャラバンについて
ア 東政が代位弁済により取得するキャラバンに対する求償債権と東政所有の千葉県八千代市大和田新田所在の不動産(以下「八千代物件」という。)についての東政のキャラバンに対する立退料支払債務七億二〇〇〇万円とを代位弁済と同時に対当額で相殺する。
イ 東政は、右代位弁済と同時に求償債権のうち一三億円を放棄する。
ウ その余は劣後債権とし、本整理計画期間中は弁済しない。
エ 整理計画の終了一年前から劣後債権の弁済について、東政と整理会社(キャラバン)は所要の協議を開始する。
(2) デーアンドシーについて
ア 東政の代位弁済によるデーアンドシーに対する求償債権とデーアンドシーの東政に対する八千代物件の立退料請求債権一億八〇〇万円とを代位弁済と同時に対当額で相殺する。
イ 右相殺後の求償債権の残額については、全額劣後債権とし、本整理期間中は弁済しない。
ウ 前記(一)エと同じ。
6 東政の代位弁済
東政は、平成六年六月二七日、前記整理計画案に基づき東洋不動産株式会社に対し八千代物件を代金四九億七五九五万一〇〇〇円で売却し(甲A一一、原告昌弘調書<1>三一頁)、キャラバンの借入金債務の合計三八億二三七二万六一六〇円と、デーアンドシーの借入金債務の合計七億〇一五五万一〇六四円とを代位弁済した(甲B二一、原告昌弘調書<1>三二頁)。
7 会社整理申立後のキャラバン及びデーアンドシーの状況
証拠(証人坂元調書五二・五三頁)によれば、整理の実行を命じる決定後の状況について、キャラバンは一般債権については二割免除を受け、八割を八年間にわたり弁済するとの方針で弁済を続けており、担保付債権についても賃料収入で弁済を続けていること、デーアンドシーについても一般債権の残額についてその八割について返済を続けており、業績は好調であることが認められる。
8 まとめ
(一) キャラバン
以上のことからすれば、本件相続開始時において、キャラバンについて会社整理、破産等の手続が開始していなかったことはもとより、債務超過の状態が長期間継続して取引先の資金協力が見込めない状態にあったわけでもなく、むしろキャラバン自身で債務返済を計画していた。したがって、キャラバンが本件相続開始時において弁済不能の状態に陥っていたものではなく、東政が物上保証債務を負担するかどうかも明らかではなかったのであり、そして東政が代位弁済をした場合にキャラバンに対する求償債権の行使が不可能な状態にあったとまでは認められない。
(二) デーアンドシー
デーアンドシーも本件相続開始時において、会社整理、破産等の手続が開始していなかった。デーアンドシーの債務超過は、平成二年八月一日から同年一二月三一日までの事業年度から始まっているが、資産合計額に対する債務超過額の割合は高いとはいえず、本件相続開始前後においてデーアンドシーの事業廃止等が検討されたような事情も窺われない。
そして、デーアンドシーの売上高は平成三年一月一日から同年一二月三一日まで、平成四年一月から同年一二月三一日までの各事業年度においてむしろ伸長しており、本件相続開始後、デーアンドシーは取引銀行から事業資金として二〇〇〇万円の融資を受けたこともあった。
また、本件相続開始後一年余を経た後にされた会社整理案の中で東政のデーアンドシーに対する将来の求償権行使の扱いもなお検討されていたことは、キャラバンと同様である。さらに、前記のとおりデーアンドシーは会社整理申立後、一般債権について計画的な弁済を続けており、現在の業績も好調である。
したがって、デーアンドシーは、本件相続開始時において債務超過の状態に陥っていたとはいえ、少なくとも、およそ再起不可能な状態にあったとは認められず、代位弁済した場合にもこれに対する求償権の行使が不可能であったとはいえない。
(三) なお、本件各証拠によっても、東政の物上保証債務及び源次郎の連帯保証債務相互の負担割合いかんは明らかではないが、負担割合がどうであれ、本件相続開始時においてキャラバン及びデーアンドシーの債務に係る物上保証及び連帯保証責任の履行が不可避であったわけではなく、かつ、履行してもその求償が困難であったということではないので、相続財産から控除すべき確実な債務が増えるものではない。
9 原告らの主張の検討
(一) 東政の求償権放棄
(1) 原告らは、キャラバン及びデーアンドシーが弁済可能な状態にあったとすれば、東政は代位弁済のため八千代物件を売却する必要はなく、また、キャラバン及びデーアンドシーが弁済不能であったからこそ両社の整理計画案において東政が求償権を放棄することが前提とされていたと主張する。
しかし、本件相続開始前後においては、東政は八千代物件を長期間賃貸することを予定していたのであり、東政が右物件を売却したのは、キャラバン及びデーアンドシーの整理計画案が具体化した後の平成六年に至ってからである。また、両社の整理計画案においても東政の求償権はその一部が放棄されるなどしたが、その余は劣後債権とされ、将来東政が求償権を行使する余地が残されていた。このように、東政が求償債権を放棄することがキャラバン及びデーアンドシー両社の再建の前提とされていたとは認められない。
(2) なお、原告昌弘及び原告アツ子は、前記整理計画案において東政の求償権が劣後債権とされたのは、これを放棄すると、それがキャラバン及びデーアンドシーの受贈益として課税対象とされるので、これを免れるためであったと主張し、証拠(原告昌弘調書<1>三六頁)中にはこれに沿う部分がある。
しかし、東政の求償権を劣後債権とするにとどめたことにそのような税金対策の意図がなかったとはいえないかもしれないが、前記整理計画案の記載からして、東政が求償権の行使を完全に放棄することが整理の前提とされていたとは認め難い。
(二) 取引銀行の融資
原告らは、キャラバンに対する取引銀行の融資は、東政が八千代物件を売却してキャラバン及びデーアンドシーの主債務の弁済に充てることを条件としてされたもので、右融資の事実はキャラバンが再建可能であったことの根拠たりえないと主張する。
しかしながら、八千代物件売却による東政の代位弁済は平成六年六月に至ってからされたもので、それ以前に既に別表九・一〇のとおりの融資が実行されていることからすれば、右融資が八千代物件の売却を絶対的な条件とするものであったとまでは認められない。
(三) 会社整理申立ての時期
原告昌弘は、キャラバン及びデーアンドシーの会社整理について平成二、三年ころから検討はしていたが、源次郎が病床にあったことを考慮し、申立ての時期が本件相続開始後の平成五年一一月にずれ込んだかのように供述する。
しかし、右供述を前提とすると、会社整理の申立をするかどうかを二年以上も考慮していたことになるが、それ自体不自然である。少なくとも右両会社が本件相続開始前から会社整理の申立てを余儀なくされる状態にあったとは認められない。
(四) 連結決算
原告政義及び原告セツ子は、キャラバンが弁済不能の状態に陥っていたかどうかは、キャラバン一社の帳簿価額ではなく、子会社六社を含むキャラバングループ全体の財務状況を考慮して判断すべきである旨主張し、証拠(甲B一八ないし二〇)によれば、キャラバン及び子会社六社の比較(連結)決算報告書における債務超過額が多額であることが認められる。
グループ全体の財務実績を把握する際には連結決算は有益であるが、親会社及び子会社もそれぞれが別個独立の法人であり、例えば子会社債務を親会社が常に負担すべき法的な義務があるわけではないので、キャラバンの弁済能力の有無はキャラバンだけについて判断すべきである。
(五) 帳簿価額の評価方法
証拠(甲B二九、証人坂元博調書)中には、キャラバン及びデーアンドシーの帳簿上の価額を実勢価額に引き直すと、平成四年一二月三一日現在キャラバンは三〇億九九〇〇万円の、デーアンドシーは八億〇六〇〇万円のそれぞれ債務超過が生じており、平成五年九月三〇日現在キャラバンは二九億九三〇〇万一〇〇〇円の、デーアンドシーは一〇億四七五〇万八〇〇〇円のそれぞれ債務超過を生じているとの部分がある。
しかし、前掲各証拠によれば、右の算出は、便宜的な割合を乗じる等して推定したもので、両会社の資産の価額の実態を反映したものとは認められない。
(六) 法人税法基本通達の適用
原告政義及び原告セツ子は、法人税法基本通達九―六―六の趣旨からすれば、整理計画において劣後債権とされたものは、回収不能と解すべきであると主張する。
しかし、右通達は、法人税法に関するもので、法人の有する貸金等が会社更生法による更生計画の認可決定等の一定の事由(同通達九―六―一)に基いて棚上げ又は年賦償還されることとなった場合に、これを債権償却特別勘定に繰り入れるための要件を定めたものであるから、これが当然に相続税法一四条一項の解釈の参考となり得るものではない。しかも、少なくとも、本件相続開始時においてキャラバン及びデーアンドシーに右通達九―六―一の定める会社更生法の更正計画の認可等の事由が生じていないことは明らかである。
(七) 求償権行使不能の判断時期
原告政義及び原告セツ子は、通則法七〇条二項、四項が国税の更正又は賦課決定等の期間を五年間と定めていること等を根拠に東政のキャラバン及びデーアンドシーに対する求償可能性は右各会社に対する求償権の行使が五年以内に可能か否かにより判断すべきであり、右各会社の整理計画案において右求償権は五年以内に求償不可能な劣後債権とされているから、相続税評価上も行使不能なものとして扱われるべきであると主張する。
しかしながら、通則法一五条二項四号は、相続税の納税義務は相続等による財産の取得の時に成立する旨規定し、相続税法二二条は、相続等により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定していること、同法二七条一項、三三条が相続税の申告期間及び納付期間を相続の開始があった日から一〇月以内と定めていることからすれば、相続税法一四条一項の「確実な債務」の要件に関し保証債務の求償可能性の有無を判断するについても、相続開始時を基準とすべきであり、相続開始後一定期間について求償可能性を問題とし、相続開始時に遡って、右要件の該当性を判断することは許されないものというべきである。
10 まとめ
以上のことから、原告昌弘及び原告アツ子が東政の出資の評価に当たり本件物上保証債務を確実な債務として控除すべきであるとし、原告政義及び原告セツ子が本件連帯保証債務をも同様に確実な債務として相続税額算定の基礎となる所得から控除すべきであるとしてした本件更正の請求はいずれも理由がなく、したがって、被告がこれらに理由がないとしてした本件通知処分は適法である。
五 結論
以上のとおりであり、本件訴えのうち原告らの本件通知処分取消請求はいずれも理由がないから棄却し、その余の訴えはいずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条・六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官近藤裕之は、転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 岡光民雄)
別紙 本件更正、本件加算税賦課決定及び本件通知処分の適法性(被告の主張)
原告らの相続税の課税価格及び相続税額は、別表五「課税価格等の計算明細表」及び別表六「相続税額算出表」記載のとおりである。そして、標記の各処分の根拠とその適法性は、次の一から四のとおりである。
一 本件更正の根拠
1 課税価格の合計額(別表五順号13の合計欄の金額)
二三億一二三三万九〇〇〇円
右金額は、原告らが本件相続により取得した財産の額から控除すべき債務の額を控除した金額(ただし、通則法一一八条一項により原告らの課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)であり、その算出の内訳は次のとおりである。
(一) 相続により取得した財産の総額(別表五の順号7の合計欄の金額)
二五億七三九五万六五〇四円
右金額は原告らが相続により取得した財産の総額であって、その内訳は次のとおりである。
(1) 土地の価額(別表五の順号1の合計欄の金額)
一二億三四五五万五六八五円
右金額は、原告らが平成五年三月八日付けで被告に提出した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)及び同年一二月一三日付けで被告に提出した相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」といい、本件申告書と併せて、以下「本件申告書等」という。)に記載されている金額と同額である。
(2) 家屋の価額(別表五の順号2の合計欄の金額)
二〇九〇万七二一一円
右金額は、本件修正申告書に記載されている金額と同額である。
(3) 有価証券の価額(別表五の順号3の合計欄の金額)
八億五五六五万三〇八〇円
右金額の内訳は、別表七の1のとおりであり、同表のうち順号1ないし4の価額は、本件申告書等に記載されている金額と同額である。そして、同表の順号5の東政の出資の価額は、本件申告書等に記載されている六八〇〇口に、源次郎が所有していた東政の出資の一部についてこれを同社の従業員ら三人に贈与していたものと原告らにおいて仮装して相続財産から除外していた四六〇〇口を加えた一万一四〇〇口に、一口当たりの出資価額七万三五三三円を乗じた八億三八二七万六二〇〇円であり、右一口当たりの出資価額七万三五三三円は、本件修正申告書に記載されている金額と同額である。
(4) 現金及び預金の価額(別表五の順号4の合計欄の金額)
一六一五万六八七六円
右金額は、本件申告書等に記載されている金額と同額である。
(5) 家庭用財産の価額(別表五の順号5の合計欄の金額)
一〇〇万円
右金額は、本件申告書等に記載されている金額と同額である。
(6) その他の財産の価額(別表五の順号6の合計欄の金額)
四億四五六八万三六五二円
右金額は、本件修正申告書に記載されている金額と同額である。
(二) 控除すべき債務の総額(別表五の順号10の合計欄の金額)
二億六一六一万五九七〇円
右金額は、相続税法一三条及び一四条(平成四年法律六九号による改正後のもの)の規定に基づき、原告らが相続により取得した財産から控除すべき債務及び葬式費用の総額であって、その内訳は次のとおりである。
(1) 債務の価額(別表五の順号8の合計欄の金額)
二億五一八九万二四九四円
右金額は、本件申告書等に記載されている金額と同額である。
(2) 葬式費用の価額(別表五の順号9の合計欄の金額)
九七二万三四七六円
右金額は、本件申告書等に記載されている金額と同額である。
2 原告らの納付すべき相続税額(別表五の順号14の合計欄の金額)
一一億一二九一万八三〇〇円
右金額は、相続税法一五条ないし一七条(一五条及び一六条については、いずれも平成六年法律第二三号による改正前のもの)の各規定に基づき、次のとおり算定したものである。
(一) 原告らの課税価格の合計額(別表六の順号1の合計欄の金額)
二三億一二三三万九〇〇〇円
右金額は、前記1冒頭記載の金額である。
(二) 遺産に係る基礎控除額(別表六の順号2の合計欄の金額)
八六〇〇万円
右金額は、相続税法一五条の規定に基づき課税価格の合計額から控除すべき基礎控除額であり、四八〇〇万円と、九五〇万円に原告らの人数である四を乗じて算出した三八〇〇万円との合計額である。
(三) 課税遺産総額(別表六の順号3の合計欄の金額)
二二億二六三三万九〇〇〇円
右金額は、右の(一)の金額から(二)の金額を控除した金額である。
(四) 原告らの法定相続分に応ずる取得金額(別表六の順号5の合計欄の各金額)
原告ら各自につき五億五六五八万四〇〇〇円(法定相続分各四分の一)
右の各金額は、相続税法一六条に基づき、原告ら相続人が法定相続分に応じて取得したとした場合の課税遺産額であり、右(三)の金額に原告らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出したもの(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(五) 相続税の総額(別表六の順号6の合計欄の金額)
一一億一二九一万八四〇〇円
右金額は、右(四)の原告ら各自の法定相続分に応じた各取得金額に相続税法一六条を適用して算出した金額の合計額である。
(六) 原告らの相続税額(別表六の順号8の合計欄の金額)
(1) 原告昌弘分 三億六二六七万七七三五円
(2) 原告アツ子分 一億一三六九万三八三三円
(3) 原告政義分 二億七四五四万一〇〇三円
(4) 原告セツ子分 三億六二〇〇万五八二九円
右の各金額は、相続税法一七条に基づき右(五)の金額にあん分割合(別表六の順号7の割合)を乗じて算出した金額である。
(七) 原告らの納付すべき相続税額(別表六の順号9の金額)
(1) 原告昌弘分 三億六二六七万七七〇〇円
(2) 原告アツ子分 一億一三六九万三八〇〇円
(3) 原告政義分 二億七四五四万一〇〇〇円
(4) 原告セツ子分 三億六二〇〇万五八〇〇円
右の各金額は、右(六)の各金額について、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。
二 本件更正及び本件通知処分の適法性
右のとおり、原告らが納付すべき相続税額は、原告昌弘が三億六二六七万七七〇〇円、原告アツ子が一億一三六九万三八〇〇円、原告政義が二億七四五四万一〇〇〇円、原告セツ子が三億六二〇〇万五八〇〇円となるところ、本件更正に係る原告らが最終的に納付すべき各相続税額は、別表一ないし四の各順号10の「異議決定」欄の「相続税額」欄記載のとおり、いずれも右各金額と同額ないしその範囲内であるから、本件更正及び本件通知処分は適法である。
三 本件加算税賦課決定の根拠
1 原告昌弘に対する重加算税の額
二〇六六万〇五〇〇円
2 原告アツ子に対する過少申告加算税額
五一一万七〇〇〇円
3 原告政義に対する過少申告加算税の額
五一二万七〇〇〇円
4 原告セツ子に対する過少申告加算税の額
五八三万六〇〇〇円
右1ないし4の算出根拠は別表八記載のとおりである。
四 本件加算税賦課決定の適法性
1 原告昌弘について
原告昌弘は、源次郎が所有していた東政の出資の一部を東政の従業員である根上直子、高野シズ及び池田幾子に対し贈与契約締結の事実があるかのように仮装する虚偽の贈与契約書を作成し、同人の相続税の申告に際し、あえてその課税価格の基礎となる財産から除外して、その課税価格を過少に申告した。これは、通則法六八条一項の重加算税賦課の要件に該当する。
同原告に課されるべき重加算税の額を通則法六八条一項により計算すると、前記三、1のとおり二〇六六万〇五〇〇円となり、同原告に対する本件賦課決定の額(別表一の順号10「異議決定」欄に記載した過少申告加算税の額一二六万八〇〇〇円及び重加算税の額一六二六万八〇〇〇円の合計額一七五三万六〇〇〇円)は、右金額の範囲内であるから、同原告に対する本件重加決定及び本件加算税賦課決定は適法である。
2 その余の原告らについて
その余の原告らは、いずれも源次郎の相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していた。
右原告らに課されるべき過少申告加算税の額を通則法六五条一項により計算すると、同原告らに対する過少申告加算税額は前記三、2ないし4のとおり原告アツ子が五一一万七〇〇〇円、同政義が五一二万七〇〇〇円、同セツ子が五八三万六〇〇〇円となるところ、右原告らに対する本件加算税賦課決定の額(別表二ないし四の各順号10「異議決定」欄にそれぞれ記載した原告アツ子に対する過少申告加算税の額五一一万七〇〇〇円、原告政義に対する過少申告加算税の額五〇五万一〇〇〇円及び原告セツ子に対する過少申告加算税の額五八〇万五〇〇〇円)は、右金額と同額かその範囲内であるから、同原告らに対する本件加算税賦課決定処分は適法である。
別表一 本件課税処分等の経緯(原告寺田昌弘)
<省略>
別表二 本件課税処分等の経緯(原告梁田アツ子)
<省略>
別表三 本件課税処分等の経緯(原告寺田政義)
<省略>
別表四 本件課税処分等の経緯(原告池谷セツ子)
<省略>
別表五 課税価格等の計算明細表
<省略>
別表六 相続税額産出表
<省略>
別表七の1 有価証券の明細表
<省略>
別表七の2 別表七の1の順号5の(有)東政の1口当たり出資の純資産価額の計算
<省略>
別表八 加算税の額の計算明細書
<省略>
別表九 キャラバンへの銀行の融資状況(平成4年9月9日以降の新規融資)
<省略>
※手形書換え等による継続融資を除く。
別表一〇 デーアンドシーへの銀行の融資状況表
(平成4年9月9日以降の新規融資)
<省略>
※手形書換え等による継続融資を除く。
別表一一 キャラバンの経営及び財務状況
<省略>
別表一二 デーアンドシーの経営及び財務状況
<省略>
別表一三 相続税額等の異議決定額
(1) 課税標準等及び税額等
<省略>
(2) 相続税の総額の計算明細
<省略>
(3) 加算税
<省略>
別表一四 平成4年9月9日現在 有限会社東政 物上保証額
(株)キャラバン
<省略>
別表一五 平成4年9月9日現在 有限会社東政物上保証額
(株)デーアンドシー
<省略>
別表一六 キャラバン親子会社連結の経営及び財務状況の比較表
<省略>